研究概要 |
マイクロサテライト遺伝子座マーカーの開発:昨年度に引き続き,ヒラタヤスデの親子判定に利用可能なマイクロサテライト遺伝子座マーカーの開発を試みた。近年新たに開発された手法を採用し,個体群内で多型に富む12領域を特定することに成功した。また,これらのマーカーは親子判定に利用できる条件を満たすことも確認できた。ただし,マーカーの開発が年度の終盤になったため,実際の親子判定を実施するには至っていない。 雄親の保護行動の適応的意義-室内実験:卵の死亡要因を特定し雄親による保護の適応度利益を測定するため,雄親から卵塊を除去して朽ち木表面に放置することで抱卵期間を短縮する実験を行い,卵塊の生存を実験区間で比較した。その結果,保護を受けなかった実験区の卵塊は短期間で菌糸に覆われ,孵化したものは皆無だった。一方,雄に保護された卵塊の艀化率は95%を越えた。この結果は,雄親による卵保護行動の機能が菌類寄生からの防衛であることを強く示唆する。ただし,卵塊に抗菌物質(プロピオン酸)を処理した実験区においても孵化に成功した卵塊は無かった。従って,「雄親による保護の機能は胚子の生理条件の改善である」という仮説を棄却することはできなかった。 野外実験:菌類による寄生以外の死亡要因も込みにした雄親保護の適応度利益を推定するため,野外で雄親の除去実験を実施した。浅く蓋のないプラスチック容器に朽ち木樹皮上で抱卵する雄と,別雄から除去した卵塊を入れてスギ倒木の下に設置したが,残念ながら十分なサンプルサイズが得られなかったため実験区間の比較はできなかった。しかし,雄親除去区ではアリ類による卵の捕食を確認することができた。雄親の卵保護が捕食者からの防衛として機能するか否かは今後の課題である
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