研究概要 |
本研究では、サンゴ-褐虫藻間の共生関係の多様性と共生体のストレス耐性の関係を明らかにすること、そして白化の機構を解明することを主な目的とし、下記の実験を行った。 造礁サンゴ2種(トガリシコロサンゴPavona divaricataおよびクサビライシFungia sp.)の解離細胞より細胞凝集塊(tissue ball)を調整し、白化機構を調べるための実験系を開発した。両種について、高温ストレス下では、褐虫藻密度とtissue ballの生存期間の間に負の相関関係があることを見出した。このことは、ストレス下で褐虫藻が共生体にとって有害な物質を産生していることを示唆する。高温ストレスによるtissue ball生存期間の短縮が活性酸素除去剤により緩和されることから、この有害物質は活性酸素であることが示唆された。 シワリュウモンサンゴPachyseris rugosaを暗黒下で1時間高温処理すると、PSIIの最大量子効率(Fv/Fm)は変化しなかったが、炭素固定回路機能の指標である最大霊子伝達速度(ETRmax)は有意な、しかし回復可能な低下を示した。一方Fv/Fmの少なくとも60%が機能していれば最大電子伝達速度は維持されることから、高温ストレスによる褐虫藻光合成系の損傷は、最初にPSII以降の要素、おそらく炭素固定回路、に生じ、PSIIの損傷は2次的なものであることが示唆された。 トゲスギミドリイシAcropora nobilisおよびニオウミドリイシAcropora paliferaの幼生または一次ポリプが、異なる宿主由来の褐虫藻(クレードA, B, C, D)を取り込み、共生系を樹立することを見いだした。今後このシステムを用いて、褐虫藻の遺伝子型、生理学的性質の差異が共生体のストレス耐性にどのような影響を及ぼすかを調べることが可能となった。
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