捕食者であるオオヒメグモの体組織の凍結開始温度(SCP)は、餌虫由来の氷核物質によって規定される。本研究の目的は、この氷核物質の特性を明らかにし、その正体をさぐることにある。昨年度にひきつづき、餌虫体内での氷核物質の分布を調べた。その結果、氷核物質はすくなくとも餌虫の消化管内に存在することが確認できた。このことは、餌虫は摂食を通して自然界から氷核物質を取りこんでいる可能性を強く示唆している。 次に、自然界における氷核物質の分布を検討した。氷核物質は、野外に生息するさまざまな昆虫の体内にあること、1年中いつでも存在していること、日本中どこにでもあること等が明らかになり、昨年度の観察を確認できた。これらの事実は、餌虫からクモに伝わる氷核物質が自然界に普遍的に存在する何らかの物質であることを示唆している。その候補としては粘土鉱物や氷核活性をもった微生物が挙げられる。 氷核物質が生物由来のものなのか非生物由来のものなのかを明らかにするために、氷核物質の耐熱性について検討を行った。加熱処理された氷核物質を摂食したクモのSCPは、加熱処理を施していない氷核物質を食べたクモのSCPよりも低かった。このことは、氷核物質は熱に弱いこと、氷核活性をもつ微生物こそがその有力候補であることを示唆している。 氷核物質の移動分散経路の解明に向けて、まず雨滴中の氷核物質の有無について予備的な実験を行った。雨滴をフィルターで濾過したのち、餌虫(ハエ)に摂食させた。その結果、ハエのSCPが有意に上昇することが確認された。雨滴は氷核物質の移動分散に関わっている可能性がある。
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