研究概要 |
ある種の堅果(コナラ属樹木の種子)は被食防御物質のタンニンを多量に含み,消費者にとって潜在的な毒物であることが明らかにされている.本研究では,秋期から冬期にかけて堅果に強く依存するアカネズミが,どのようなメカニズムによって堅果中のタンニンを無害化し利用しているのかを明らかにするために,タンニンに対する生理的な馴化に着目して研究を行った. はじめに,馴化に関わると考えられる二つの要因(タンナーゼ産生細菌及びタンニン結合性唾液タンパク質)について検討を行った.アカネズミの糞便中からタンナーゼ産生細菌の検出を試みたところ,連鎖球菌に属するものと乳酸菌に属するものの2種が発見された.アカネズミの糞便中のタンナーゼ活性は2.6mU/gであり,ミズナラ堅果だけを摂取した場合に体内に取り込まれるであろうタンニンの約20%が,これら腸内細菌の働きによって代謝されると推定された.また,タンニンに対する防御物質と考えられるタンニン結合性唾液タンパク質をアカネズミが高いレベルで分泌しており,さらにタンニンを摂取することによって分泌レベルが亢進することが明らかになった. 馴化の効果を検証するために,アカネズミ2群(タンニン馴化群と非馴化群)を用いミズナラ堅果の供餌実験を行った.非馴化群では14頭中8頭が死亡したのに対し,馴化群では12頭中1頭のみが死亡した.体重減少は,非馴化群で-17.9%,馴化群で-2.5%であった.パス解析によって,唾液タンパク質を多く産生し乳酸菌タイプのタンナーゼ産生細菌を多く持つアカネズミほど,体重減少が小さく,タンニンによる負の効果を効果的に克服していることが判明した.以上の結果から,タンニンを無害化する上で馴化が効果を持つこと,そして馴化の確立にはタンニン結合性唾液タンパク質とタンナーゼ産生細菌(乳酸菌タイプ)が関与していることが明らかになった.
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