研究概要 |
ある種の堅果(コナラ属樹木の種子)は被食防御物質のタンニンを10%という高濃度で含有し,消費者にとって潜在的な毒物であることが課題担当者らの先行研究によって明らかにされている。本研究は,秋期から冬期にかけて堅果に強く依存するアカネズミが,どのようなメカニズムによって堅果中のタンニンを無害化し利用しているのかを明らかにすることを目的としている。前年度はタンニン結合性唾液タンパク質とタンナーゼ産生細菌による生理的なタンニン防御機構について明らかにしたので,本年度は行動的防御機構について検討した。 これまでの観察から,アカネズミは堅果を摂食する際に,摂食量と匹敵するほどの食べかすを残すことが明らかになっている。この行動は,堅果を摂食する際にタンニン含有率の低い部位を選択的に摂食するというミクロスケールでのタンニン回避機構なのではないかと考えられる。そこで,コナラ堅果の子葉の一方をコントロールとし,他方をアカネズミに供餌し,採食部位と食べ残し部位のタンニン含有率を比較した。食べ残し部位(6.6%)は採食部位(5.2%)に比べて有意に多くのタンニンを含んでいることが判り,アカネズミはタンニン含有率の低い堅果部位を摂食し,高い部位は食べのこすという選択的な採食行動を行うことを明らかにした。 以上の生理的及び行動的なメカニズムによって,アカネズミはタンニンを多量に含む堅果であっても効率的に利用でき,重要な種子散布者/捕食者として機能しているものと考えられる。
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