カッコウ類の托卵を受ける宿主では、卵排除などの対托卵行動が見られるのが一般的である。しかし、ホトトギスの托卵を受けるウグイスにはそのような行動が見られない。留鳥であるウグイスは繁殖を早く開始することによって夏鳥であるホトトギスの托卵圧を軽減している可能性がある。この時間的エスケープを含むウグイスの対托卵戦略に関する調査を行った。 様々な標高や緯度の調査地でホトトギスとウグイスの生息状況を調査したところ、いずれの調査地でもウグイスが生息する場所にはホトトギスが渡来しており、托卵を受けていない、あるいは托卵圧が極めて低いウグイス個体群はなかった。ウグイスの繁殖開始時期は標高が高い場所では一般的な夏鳥とほぼ同様で遅かった。これは積雪によるものと考えられ、このような場所ではウグイスが時間的エスケープ戦略をとることが不可能であると考えられた。 気候の温暖な三宅島では、ウグイスは2月中旬にはさえずり始め、3月中旬には多くの雄がなわばりを確立した。これらの行動は、三宅島の他の留鳥(ミソサザイ・ホオジロ・シジュウカラなど)よりも早い傾向があった。三宅島は巣の捕食率が低く、巣の探索が比較的容易であることがわかったので、平成18年度は多くの巣について繁殖進行状況を調査し、基礎的な情報であるウグイスの生産雛数・托卵率の季節変化を把握した上で、托卵からの時間的エスケープの可能性を検討する。また、平成17年度に開催したワークショップ「托卵鳥と宿主の共進化」の成果を活かし、理論的考察を深める。
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