カッコウ類の托卵を受ける宿主では、托卵された卵を排除するなどの対托卵行動が見られる。しかし、ホトトギスの托卵を受けるウグイスでは、そのような直接的な対抗手段は見られない。留鳥であるウグイスは繁殖を早く開始することによって夏鳥であるホトトギスの托卵圧を軽減している可能性がある。この時間的エスケープを含むウグイスの間接的な対托卵戦略に関する調査を東京都三宅島で行った。 ウグイスは2月中旬にさえずり始め、3月中旬に多くの雄がなわばりを確立した。これらの行動は他の留鳥よりも早い傾向があった。ウグイスは4月上旬から繁殖を開始したが、6月上旬にホトトギスが定着すると大半の巣が托卵を受けた。育雛に必要な餌生物である昆虫の発生量を調査したところ、昆虫の増加する時期はウグイスの育雛期とほぼ一致していた。ウグイスの繁殖時期は托卵よりも育雛のための餌による制約を強く受けているのかも知れない。しかし、ホトトギス渡来前にウグイスが産卵できる1〜2回分の繁殖では托卵の影響を受けずに雛を生産することができ、托卵のコストが軽減されていることが明らかとなった。 剥製提示実験では、ウグイスはホトトギスの剥製に警戒・攻撃行動を示した。托卵を受けなかった個体は受けた個体よりも防衛行動が強かった。このことは、ウグイスが托卵鳥に対して巣の防衛を行い、それが托卵回避に機能していることを示している。 巣場所の特性(高さ・見えにくさ・植生密度等)をホトトギスの渡来前後で比べると、渡来後に作られた巣の方が見えにくい場所にあった。しかし、托卵と巣場所の特性の間には関係が見られず、ウグイスが巣場所を選択することによって托卵を回避しているかどうかは明らかにできなかった。 本研究により、宿主と托卵鳥の渡り性の違いが托卵のコスト軽減にはたらくこと、巣の防衛行動が対托卵戦術として有効であることが示された。
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