(1)植物が行う光合成において、集められた光エネルギーは直列に並ぶ2つの光化学系により化学エネルギーへと変換される。このとき、光合成反応を最適に行うためには、光化学系Iと光化学系IIの励起のバランスをとらなければならない。励起のアンバランスな状態が長期にわたる場合、遺伝子発現の調節が行われ光化学系IとIIの量比が最適化されるが、実は光化学系IとIIの量比そのものは変えず、両光化学系の集光能力を瞬時に最適化する別の仕組みがある。この仕組みはステート遷移(state transition)と呼ばれてきたが、その分子基盤は長らく不明のままであった。本研究ではこのステート遷移能力が特に発達している緑藻クラミドモナスを研究材料に用いて、光化学系IとIIの巨大タンパク質複合体の解析を行った。その結果、これまで光化学系IIに固定されていると考えられていた3種類のクロロフィル結合タンパク質が、2つの光化学系間を移動している証拠を見出し、これらのタンパク質因子のシャトル輸送に基づく、全く新しいステート遷移の分子モデルを提唱した。(2)また、この3種類のクロロフィル結合タンパク質の一つCP29の発現をRNAiにより抑制した株を作成したところ、通常よく問題なく成長する弱光の下でも大きな光障害を引き起こすことがわかった。(3)さらに生理条件下でこのステート遷移の発動条件を調べたところ、二酸化炭素欠乏条件時に優先的に発動されることが明らかとなった。
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