マダコ(Octopus vulgalis)の生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(oct-GnRH)の脳内での分布を免疫染色によって詳細に検討した。腕の運動を制御する前食道下塊(特に前背、後方腹側)、内臓感覚・運動、漏斗運動を制御する後食道下塊(特に後色素胞葉、内臓葉)、運動姿勢を制御する眼柄葉および前・後基底葉系、嗅覚を制御する嗅葉、味覚と口球運動を制御する上口球葉、生殖腺成熟を制御する脳下脚葉、触覚の高次中枢である下前葉、視覚の高次中枢である上前葉、さらに視覚と触覚の高次中枢である垂直葉に強い免疫陽性神経細胞と神経線維が観察された。これらの高次中枢は、頭足類の胚発生において艀化直前の最も後期に発現して記憶と学習を司り、哺乳類脳では海馬と大脳皮質に類似すると考えられている。特に垂直葉は5つの小葉に分かれているが、oct-GnRH免疫陽性神経は、最も外側のlateral lobeに特異的に発現していた。また、マダコのオキシトシン/バソプレシンスーパーファミリーペプチドであるオクトプレシンについても垂直葉での免疫染色を行った。この場合は、oct-GnRHと異なり、5つの小葉のうちmedialとmediolateral lobeに領域特異的に発現していた。これらのことから、oct-GnRHやオクトプレシンは脳ペプチドもしくは脳ホルモンとして神経細胞の成長や学習形成に関与しているのではないかと推測された。
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