アメリカザリガニは静止状態にあるとき、尾扇肢への軽い接触刺激に対して回避行動をしめすが、その応答パターンは齢依存的に切り替わり、小型アメリカザリガニは両側の尾扇肢を閉じながら、腹部を弱く伸展させ、歩脚を用いて前方へ歩行し、刺激源から遠ざかる逃避型のダート応答をしめす。一方、成長して大型のザリガニになると、尾扇肢を左右非対称的に開閉し、主に腹部を屈曲させながら刺激源に向かって体を一回転させながら定位し、ハサミを持ち上げ威嚇姿勢をとる防御型のターン応答をしめす。 ザリガニは縄張り社会性を持ち、二匹のアメリカザリガニが出会うと、お互いに接近し、ハサミを持ち上げ闘争を始め、30分以内に優位個体、劣位個体という社会的地位が成立する。たとえ小型のアメリカザリガニであろうと一度優位な地位になると、尾扇肢への接触刺激に対し、ダートではなくターン応答するようにこの行動の発現パターンが可塑的に変化する。社会的地位が一度決定したアメリカザリガニを、別の相手とベアリングしたならば、この社会的地位の再形成がすぐに起こるのか、そしてその時の回避行動の応答パターンはどうなるのか、また過去の社会的地位の履歴は、社会的地位再形成の過程にどのような影響を及ぼしているか、主に神経行動学的に解析した。 (1)優位個体は次の社会的地位形成において劣位個体よりもより攻撃的であり、別のグループの劣位ザリガニと二回目のペアリングをした場合、必ず縄張り争いに勝利した。 (2)優位個体同士の組み合わせでペアリングを行った場合、負ければすぐにダート応答を行うようになった。また劣位個体間のペアリングでの勝者はターン応答を行うようになる。 (3)優位個体同士のペアリングは単独飼育個体間よりも高い頻度で闘争を行うが、より短い時間で勝負がつく。劣位個体同士のペアリングでは約半数のペアでしか優劣関係が成立せず、闘争一回あたりの時間も短かった。
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