【夜行性昆虫の空間認知能の再検証】昨年度はコオロギの空間認知能の基礎データを得た。すなわち異なる4種類の曲率の壁からなる閉空間(不定形アリーナ)に盲目コオロギを入れ、その滞在時間の空間分布を調べた結果、コオロギは相対的に最も狭い空間を好むことを明らかにした。本年度はより長時間のデータを2系統で自動計測できる画像解析システムを作製し、これを用いて実験条件をさらに細分化して以下の知見を得た。1)形状は同じだがサイズの異なる5種類の不定形アリーナにおける滞在時間の空間分布を調べたところ、すべてのサイズで最も狭い空間に選択的に滞在する傾向が雌雄ともに見られた。2)円形アリーナの壁面底部に複数のシェルターを放射状に設置し、そこでの滞在時間を調べた。奥行きは一定(100mm)だが幅が異なる(20〜40mm)6種類のシェルターを設置したところ、オスでは比較的幅が狭いものを、メスではより広いものを選択する傾向が見られた。3)幅は一定(30mm)だが奥行きが異なる(60〜160mm)6種類のシェルターを設置したところ、雌雄ともに奥行きが長いものを選択した。特にメスは高いサイズ検出能を持っことが示唆された。 【薬理的に発現させたアンテナリズム】触角(アンテナ)は昆虫にとって能動的触覚(ハプティクス)に与る主要な感覚器である。昨年度はムスカリン性アゴニストのピロカルピンをインタクトなゴキブリの頭部に注入すると空間的に規則的な8の字型あるいはループ型のアンテナ運動が発現することを報告した。本年度はこれに加えてニコチン性アゴニストもアーチ型または8の字型のアンテナ運動を惹起することを見出した。これらの運動パターンはインタクトな動物でも見られることから、ムスカリニック受容体に加えてニコチン受容体もアンテナの自発運動の発現機構に関与することが示された。
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