本研究は、複雑な能動的触覚(ハブティクス)を昆虫の触角(アンテナ)という比較的単純なシステムを用い、行動観察を基礎として生理学的にその神経機構を明らかにすることを目的として実施され、以下の知見を得た。 【不定形アリーナを用いた空間認知能の検証】異なる4種類の曲率の壁からなる閉空間(不定形アリーナ)に盲目コオロギを入れ、アリーナ内での滞在時間の空間分布を調べた。コオロギは相対的に最も狭い空間を選択的に好むこと、アンテナがこの空間選択性に関与することを明らかにした。 【シェルター選択性による空間認知能の検証】サイズが異なる複数のシェルターをもつ円形アリーナを用意し、上記と同様に調べた。雌雄共に特定のサイズのシェルターを選択する傾向が存在した。 【アンテナ筋の神経支配】ゴキブリのアンテナ筋より細胞内誘導をしながら、運動神経刺激によって発生する接合部電位を記録した。これによりすべてのアンテナ筋の神経支配様式を明らかにした。 【アンテナのキネマティクス】アンテナ筋肉の直接的電気刺激によっておこるアンテナ運動を3次元解析し、各関節の回転軸の方向、振幅、中立位置などを調べた。アンテナは総関節自由度5の比較的複雑な運動をすることが分かった. 【薬理的に発現させたアンテナリズム】アセチルコリン類以物質であるピロカルピンおよびニコチンをインタクトな動物の頭部に注入したところ、空間的に規則的なアンテナ運動が発生した。これと同様の運動パターンは触覚定位行動時にも頻繁に観察された。ピロカルピンは摘出脳においても、アンテナの水平および垂直運動神経間で協調的活動を引き起こした。ムスカリンおよびニコチン受容体とアンテナ運動発現調節との関連が示唆された。 【匂い刺激とアンテナ運動】誘引的および忌避的匂い刺激によって起こるアンテナ運動を3次元記録し、薬理的に強制発現した運動パターンと比較した。
|