研究概要 |
褐藻カヤモノリは世界中の温帯・寒帯沿岸に分布する普通種で,これまでの研究で隠蔽種の存在が示唆されていた。本研究では,核リボソーム遺伝子のITS2領域およびチトクローム酸化酵素遺伝子(ミトコンドリアコード)のサブユニット3領域(cox3)の塩基配列を決定し,それらのハプロタイプの組合わせから隠蔽種の境界を探ることを目的とした。また,交雑実験により,その境界の妥当性を検証した。日本各地の約90サンプルの解析から,ITS2には26ハプロタイプ,cox3には31ハプロタイプが見つかった。ハプロタイプの系統解析と相違度の解析から,ITS2には8つのハプロタイプ・グループ(A〜H)を,cox3には11のハプロタイプ・グループ(K〜V)を認めた。ITS2とcox3のハプロタイプ・グループの組合わせは,12通りであった。このうち,AK,AM,ANの組合わせをもつものは,Aハプロタイプを共有していることから,同種であると考えた。同様に,FL,GL,GSをもつものは別の一つの種で,HU,HVをもつものはまた別種であると推察された。他の組合わせは,サンプル数が少なく,今回判断はできなかった。交雑験は,メス14株,オス12株の培養株を用いて行った。交雑実験結果は,ハプロタイプ解析で示唆された3つの隠蔽種を支持するものであった。また,その他の交配群の存在も示唆された。褐藻類のみならず,単純な形態をもつ生物には多くの隠蔽種が存在すると予想されるが,本研究で行った,独立して遺伝する分子種のハプロタイプ解析は,隠蔽種の探索に大変有用であることが示された。
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