環日本海地域に遺存固有種として分布するトミヨ属種群について、種分化の過程を考慮に入れた分類の再整理を研究目的とし、アロザイムとミトコンドリアDNAを遣伝的マーカーとして解析をおこないこれらの解析データを基に系統解析をおこなった。 昨年度のアロザイム15遺伝子座の解析に基づいて遺伝的関係を構築した結果、環日本海地域に分布するこれらの遺存固有種群は2つの大きなグループから構成されていることが明らかになった。今年度はアロザイム解析で得られた2つの遺伝的集団、すなわち、山形・秋田の雄物型各2個体群と韓国南部に分布するP. kaibaraeの1個体群から成る遺伝的集団と、ロシア沿海州のP. bussei2個体群と韓国北部のP. kaibarae個体群から構成される遺伝的集団が、mtDNA解析からも支持されるかどうかを検証するために、Cyt b、CR、およびATPase6の進化速度が異なるとされる3つの領域の塩基配列データを基に解析を行った。 Cyt bでは1141bp、ATPase6では684bp、およびCRでは830-930bpを解析の対象とした。そして、今回解析した環日本海地域に分布する6つの遺存固有種群はCyt bでは100箇所、ATPase6では45箇所、およびCRでは65箇所で塩基置換が認められた。これらの解析データを基に、淡水型と加え、イトヨを外群としたNJ樹では、山形の雄物型からなるクラスター、P. busseiとP. kaibaraeからなるクラスター、そして、秋田の雄物型のクラスターの3つの集団に分かれた。これら3つの集団はアロザイムから得られた2つの遺伝的集団とは一致しなかった。両性遺伝をする核ゲノムの指標であるアロザイムの解析と母系遺伝をするmtDNA解析の結果の不一致から、秋田の雄物型は淡水型との間で過去に交雑をおこし、淡水型からのmtDNAの移入を受けたことが示唆された。
|