本年度は、ノトテニア科に属するTrematomus newnessii、Lepidonotothen nudifrons、L.kempi、Gobionotothen giberifronsの4種についての実験を行い、UVオプシン遺伝子の他、青オプシン、緑オプシンおよびロドプシン遺伝子の全長塩基配列を決定した。これらの配列とアメリカの研究グループが報告(2005)した他5種のオプシン遺伝子配列をもとに、ノトテニア亜目魚類のオプシン遺伝子取得に適した特異的プライマーの設計を行った。 アメリカの研究グループはノトテニア亜目魚類には赤オプシンは発見できなかったと報告したが(2005)、申請者は、本年度にLepidonotothen nudifronsで赤オプシン遺伝子断片を得ており、今後、早急にこれの全長配列を決定し報告する予定である。 また、他の科に属するノトテニア亜目魚類数種の網膜サンプルを国内共同研究者から譲り受け、totalRNAを精製した。この中には昭和基地周辺で最もポピュラーな魚種で、申請者らがUV受容細胞の存在が確認しているTrematomus bernacchiiが含まれているが、上記アメリカの研究グループは本種においてはUVオプシン遺伝子が無いとの結果を報告しており、今後、その正否の検証をおこなう予定である。これまでは成魚のみの解析であったが、今年度、Champsocephalus gunnari稚魚のサンプルも得ることができた。今後はノトテニア亜目魚類におけるUVオプシン遺伝子の成長に伴う消失や維持についても解析をしていく予定である。 網膜オプシン遺伝子のin situ hybridyzationについては、これまで凍結切片でのみ可能とされてきたが、今年度、三重大学遺伝子センターの有益な助言のもと、パラフィン切片で、mRNAが錐体細胞核からミオイドにかけて錐体楕円体に移動していく様子が明瞭に確認できる結果を得た。これについては、国際学会誌に投稿するための草稿を鋭意執筆中である。
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