研究概要 |
本課題では、南西諸島と台湾のハマボッスを主な対象として,DNA多型と染色体ゲノムの多型が地理的構造を持つことを明らかにすると共に,これらの多型が相互にどうのように干渉しながら種が維持されているのかについて考察を進めた.40集団(島嶼では複数の小集団毎に採集して1集団として合算:105小集団)1320個体を対象にして葉緑体DNAのスペーサー2領域約1100bpの塩基配列に基づいてハプロタイプの同定を行った.その結果,11種類のハプロタイプが同定され,AMOVAによって「本州日本海側」「本州太平洋側,九州,北琉球」「中琉球」「南琉球」「台湾と周辺諸島」の5単位に分割することが支持された.この地理的単位では全体の変異の54%以上が地域間に帰属した.琉球列島では慶良間海峡とトカラ海峡を境にして,3地域に分断される地理的構造があることが支持された.ハプロタイプ多型は母集団に既に存在しており,第四紀気候変動の中で陸橋の形成と分断の影響を受けながら,現在のハプロタイプの地理的構造を形成していったものと考えられる.染色体多型では以下の変異があることを見いだした(mはそのうちの中部型染色体数を示す) 2n=16(6m),2n=17(6m), 2n=17(7m),2n=18(4m),2n=18(5m),2n=18(6m),2n=19(5m),2n=20(2m),2n=20(4m) これらの多型は沖縄本島北部と奄美大島南部に位置する加計呂麻島で同所的に生育していたことから、テロメアの位置をFISH法で観察したところ、減数分裂に際して染色体が融合する現象が高頻度で観察された。この融合によって形成された染色体は、長さが異なる別の染色体と異形接合することによって二価染色体(まれに三価以上の多価染色体)を形成している。このことによって減数分裂時の染色体の分配は極めて正常に行われていることが確認された。
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