ヌマガエルFejervarya limnocharisはアジア系のカエルの中では最も広く分布する種の一つで、わが国の本州中部からインド・パキスタンまでと、フィリピンおよびインドネシアに棲息することが知られている。形態的な変異は比較的少ないが、鳴声や遺伝的形質に地域間や地域内での変異が著しく、実際にはこの種名の下に多数の種が存在すると考えられている。本年度は、アジアに広範に分布するヌマガエル種群について、種分化の実態を解明するため、アジアの8ヵ国から23集団のヌマガエル種群を用いて、交雑実験とミトコンドリアDNA解析を行った。先ずこれまでに多くの動物で最もよく解析に使用されており、データバンクに登録されている情報も多い、ミトコンドリアDNAの16S rRNA遺伝子を用いて系統解析を行った結果、アジアのヌマガエル種群は南アジアと東南-東アジアの大きく2つのグループに分岐することがわかった。これらのうち、南アジアのグループはさらに漸次に分岐し、いくつかの種に分化していることが推定された。また、東南-東アジアのグループはさらに2つに分岐し、これらはそれぞれ基準産地のF.iskandariとF.limnocharisに近縁であることが推定された。また人工受精法により交雑実験を行ったところ、アジアのヌマガエル種群には以下のような繁殖隔離機構の存在することがわかった。つまり、南アジアと東南-東アジアのヌマガエル種群は、完全な雑種致死により隔離されていること、東南-東アジアのF.iskandariとF.limnocharisのグループは、雑種発育不良により隔離されているが、隔離が不完全な場合には雑種の精子形成が異常となること、南アジアのグループの間には、雑種不妊による隔離があることなどがわかった。
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