研究課題
ヌマガエル(Fejervarya limnocharis)はアジア広域に分布する種の一つで、従来単一種とされていた。近年、本種のいくつかの集団において、外部形態では区別がつかないが、遺伝的に大きく異なる隠蔽種の存在することが報告されている。タイのヌマガエルについても、これまでF.limnocharis単一種とされていたが、遺伝的に異なる複数のタイプの存在することがわかってきた。本研究では、タイ及びその近隣諸国のヌマガエル種群における種分化の実態を解明するとともに、本種群における系統関係を推定することを目的として、タイとその近隣諸国から採集したヌマガエル種群の27集団の計86個体を用いて、ミトコンドリアDNAの12Sと16SrRNA遺伝子と、核DNAのCXCR4、NCX1、RAG1、Tyrosinase遺伝子の解析を行った。その結果、タイのヌマガエル種群にはミトコンドリアの12Sと16SrRNA遺伝子において明確に区別される3つのハプロタイプが存在する・ことが分かった。ハプロタイプ1と2は東南アジア起源でそれぞれF.limnocharisとF.orissaensisに近縁であり、Fejervarya属の中でも東南アジアに広く分布するグループに属していた。ハプロタイプ3はタイ西部のピロックのみで見つかったが、南アジア起源で、系統的にはインドを中心とした南アジアに分布するF.syhadrensis由のグループに属しており、末記載種の可能性があることが分かった。一方、日本産ヌマガエルのうち先島諸島のものは大型で後肢が長く、鳴声も分化しており、日本本土や台湾のものと遺伝的に分化しているが、繁殖隔離はないことが知られている。本研究では日本産ヌマガエルの種分化の程度を細胞学的に解明するため、石垣島、西表島、沖縄島および広島の4集団の間のヌマガエルの雑種の精巣を用いて、減数分裂における染色体の行動を観察した。その結果、分裂像当たりの1価染色体の数は、広島、沖縄島および石垣島の各集団では平均0.02、沖縄島と広島の雑種では平均0.06、広島と石垣島・西表島の雑種では平均0.88であった。また、2価染色体には輪状と棒状とがあるが、広島、沖縄島および石垣島の各集団や沖縄島と広島の雑種では輪状の2価染色体が多く、棒状は僅か3.2%であったが、広島と石垣島・西表島の雑種では15.1%が棒状であった。広島と先島諸島の雑種では1価染色体と棒状の2価染色体が増加していたが、その異常の程度は極めて軽微であって、これらは亜種レベルの分化であると推定された。
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Zoological Science 24(3) (In press)
Zoological Science 24(5) (In press)