動物個体では、病原体などの異物(抗原)が侵入するとまず自然免疫機構が働き、抗原の認識と初期排除を行う。しかし、自然免疫機構と獲得免疫機構は複雑に連携しており、自然免疫機構の本質的な解明を困難にしている。申請者は、有顎脊椎動物型の獲得免疫機構が確立していない円口類に着目し、抗原認識レクチンの検索を行ってきた。円口類のヤツメウナギでは、高等動物と同じマンノース結合レクチン(MBL)が抗原認識を行っている。そこで、昨年度までにMBLを検索し、4種類の候補タンパク質(分子量19、26、27、31kDa)を見出してきた。今年度は、これらタンパク質が本当に抗原認識レクチンであるのかについて検証した。これまでに明らかになったMBLにはコラーゲン様ドメイン(CLD)が存在しており、数分子がS-S結合により会合して数百kDa以上の巨大分子を形成していることがわかっている。そこで、これら4つのタンパク質にもこの特徴があるのかを調べたところ、CLDの存在を確認することができなかった。そこで、再度検索し、CLDを含むレクチン活性をもつ血清タンパク質を2種類(25kDaと73kDa)単離することに成功した。この2つの分子は会合していたが、数百kDaにも及ぶ巨大分子は形成していなかった。尾索類ホヤの抗原認識レクチンはグルコースだけを認識することが明らかになっているので、血清中のグルコース認識レクチン(GBL)についても調べた。その結果、ホヤのGBLと同様の特徴を持つ25kDaタンパク質を見出すことに成功した。この結果から、同じ円口類の動物群とされるヌタウナギからヤツメウナギへと進化する過程で抗原認識機構が変化したと考えられた。
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