研究概要 |
本研究は自然集団中にふくまれる突然変異間の有害効果の相乗作用を自然淘汰の働きを通して検証し,これを基に機能関連する遺伝子群を同定することを目的とする.昨年,単純な連鎖不平衡量の比較の枠をこえ,現在進行中の自然淘汰の働きを検出する新手法を開発した.これは特定のハプロタイプに着目し,それに基づいてサンプル個体を遺伝子型に分類し,変異量を遺伝子型間で比較するものである.この手法をショウジョウバエの多型的逆位に応用し,実際に淘汰の働きを検出した.また,既存のハーディー・ワインバーグ検定と検出感度を比較し,エピスタシスをもった多遺伝子淘汰の検出に新手法が優れていることを明らかにした.これはハーディー・ワインバーグ検定と異なり,私たちが開発した手法は複数の座位の変異を込みにして1つのテストで解析が可能であることに起因する.以上の結果をGeneticaに発表した(オンライン). また,この新手法のX染色体への応用も行った.ショウジョウバエはヒトと同じXY型の性決定様式をとる.ここで着目するハプロタイプはX染色体で,雌雄でX染色体上の変異を3つの化学受容体遺伝子について比較した.その結果,シングルトン,ダブルトンといった稀な変異の数が雌より雄で有意に少ないことが分かった.これは雄ではヘミ接合となるため,突然変異の有害効果がより顕著に表れるためと理解できる.この結果は現在,投稿中である. 以上,応用した2つの例のいずれでも現在進行中の淘汰の働きを検出できた.この結果はこれまで考えられていた以上に頻繁に強い淘汰が働いていることを示唆している.
|