研究概要 |
ヒトの世代当たりゲノム当たりの有害突然変異率は3個と推定されている.このように高い突然変異圧のもとでは集団全体の平均適応度の低下が危惧されるが、有害効果に相乗的な相互作用があれば有害突然変異が集団に及ぼす影響はこの率から予測されるよりも小さなものとなる.一方,相乗作用の存在を同定できれば、遺伝子間の機能関連を発見することも可能である.この考えに基づき、突然変異間の相乗作用の存在の有無を検証し,機能関連する遺伝子群を同定することを目的に,「自然集団中のDNA多型変異間の連鎖不平衡解析」をショウジョウバエ遺伝子に対し応用した.その結果,次の知見を得た.1)化学受容体遺伝子間に多量の連鎖不平衡を検出し,その量は季節変動し,春サンプルで特に非同義多型間の連鎖不平衡量が増大することを見出した.さらに、非同義変異においてのみ連鎖不平衡に一定の方向性があることを春サンプルで明らかにした.すなわち,まれな変異同士の組合せが期待値より少なくなる傾向があった.受容体遺伝子間の代理性機能のために、淘汰が各遺伝子に独立にではなく、複数遺伝子の組合せを通して働いたことを示唆している.2)より有効に淘汰、機能関連を検出するための新たな手法を開発した。これは特定のハプロタイプに着目し、ハプロタイプに基づく遺伝子型により個体を分類し,異なる遺伝子型間で変異量を比較するものである.この手法により,第2染色体上の多型的逆位In(2L)tに働く淘汰の検出に成功した.また,X染色体上の化学受容体遺伝子の解析から,観察される変異の一部は有害であり,ヘミ接合となる雄においてより有効に集団中から除かれることを明らかにした.これらの結果は自然集団において強い淘汰がこれまで考えられていたよりも頻繁に働いていることを示唆していて,遺伝子間の機能関連を探る有効な材料となることを示している。
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