大腸菌において膜内在性タンパク質は、その合成に共役して膜挿入することが知られている。疎水性の強い膜貫通領域はシグナル認識粒子(SRP)とSRP受容体(SR)により膜にターゲットされ、タンパク質膜透過装置(SecYEG)上で膜挿入が進行すると考えられている。我々はMtlA(膜を6回貫通)を膜挿入基質として膜挿入反応の再構成系を確立した。その結果、MtlAの膜挿入にはSRP/SRとSecYEGのみでは不十分であることが判明した。膜挿入反応に関与すると考えられているYidCの添加によってもMtlAの膜挿入は観察されなかった。再構成系を利用してMtlAの膜挿入に必要な因子を検索・精製したところ、SDS-PAGE上で約8kDaの因子を細胞質膜から得ることができた。すなわち、MtlAの膜挿入はSRP/SR、SecYEG、本因子により再構成することができた。この因子はプロテイナーゼK消化により失活するため、タンパク質であると考えられたが、ペプチド部分は分子の一部分であった。他の大部分は糖成分と脂質成分であることが判明した。因子の糖部分を弱塩酸処理で、脂質部分を弱アルカリ処理により分解したところ、膜挿入活性は完全に消失した。これらのことから、因子を構成しているペプチド、糖、脂質成分はすべて活性に必須であることが明らかとなった。大腸菌外膜の主要成分は糖脂質であるLPSである。LPSにはペプチド構造は存在しないものの、本因子との類似性が予想された。LPS合成系の変異株(Re変異株)を調べたところ、因子の分子量が大きく低下していた。さらに、この株から因子を精製したところ、膜挿入活性は大幅に低下していた。また、この変異株には分泌タンパク質前駆体の蓄積が観察された。以上のことから、因子はLPS誘導体であり、in vivoでも因子は膜挿入反応に関与することが示された。
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