本研究では、大腸菌におけるタンパク質内膜挿入機構について、膜挿入の再構成系を用いて解析した。その過程で膜挿入に関わる新因子を発見し、その構造と機能の相関関係について調べた。膜挿入の再構成系を構築するに当たって、タンパク質分泌装置SecYEGに依存して膜挿入するMtlAですらリポソームに自発的膜挿入することが問題となった。この自発的膜挿入は生理的濃度のジアシルグリセロール(DAG)をリポソームに混入することにより抑制された。さらには、20年以上にわたって自発的に膜挿入すると考えられてきたMl3ファージのコートタンパク質(Ml3 procoat)ですらDAG存在下では自発的には膜挿入しないことが判明した。すなわち、細胞は無秩序な自発的膜挿入を抑制する仕組みを備えており、DAGはその抑制に中心的な役割を果たすことが考えられる。DAG存在下では、MtlAの膜挿入にはSecYEGだけでなくSDS-PAGE上で約8kDaの新因子が必須であった。Sec因子を必要としないMl3 procoatの膜挿入もこの因子には依存した。この因子はプロテアーゼ処理により失活したが、分子の大部分は脂質、糖質であった。さらには、外膜主要因子、リボ多糖(LPS)の変異株ではこの因子の発現も影響を受けることが判明し、この因子の構造は、LPSの基本骨格であるLipid Aの誘導体であることが判明した。 上記の結果以外にも、膜挿入反応には細胞質因子としてSecA/SecBやFfh/FtsY以外には必要ないことも明らかにした。また、リボソームタンパク質L36をコードするrpmJ遺伝子はSecYの発現調節に関わっていること、secG遺伝子の発現は直後のtRNAの発現と共役していることも判明し、タンパク質合成とそれに続く膜透過・膜挿入には密接な関係があることがSec因子発現の観点からも強く示唆された。
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