結核菌ゲノムの遺伝子解析の結果、これまで4種類の硫酸転移酵素が推定されている。これらの予想1次構造は、既知硫酸転移酵素との相同性が10%以下と極めて低く、又相互問にもほとんど相同性が見られない。これらの遣伝子産物が硫酸転移酵素であるかどうかも含めて、その機能の推定はゲノム情報のみでは困難である。我々は、現在までにこの内STF1が糖脂質に対する硫酸転移活性を示唆するという予備的な結果を得ている。このSTF1について、立体構造を決定するとともに、真の基質を決定し、硫酸化糖脂質の生合成過程の一端を明らかにするとともに、結核菌のおける硫酸転移反応の生物学的意義の一端を明らかにすることを本研究の目的とした。 本年度は、前年度に行ったSTF1の大腸菌による発現、精製、結晶化に基づいて、結晶化条件の最適化を図るとともに、重原子同系置換体結晶を作成、シンクロトロンでのX線解説実験を行った。その結県、複数の重原子同系置換体結晶を得ることができた。X線回折データの測定においては、異常散乱効果を最適化したX線の波長を選択し、良好なデータを入手することに成功した。これらのデータを用いて、MIRAS法により位相情報を決定し、立体構造構築に十分な質の電子密度を得ることができた。コンピューターグラフィックスソフトを使用して、分子モデルを構築し、精密化を行うことで、STFの立体構造を決定できた。 STF1の立体構造をは、予想どおり、硫酸転移酵素に特有のPAPS結合モチーフの構造を持っており、立体構造の観点からも、STF1は硫酸転移酵素であることが、強く支持された。
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