研究概要 |
細胞内pH環境や浸透圧の維持は細胞の正常な活動にとって非常に重要で、H^+,Na^+に関するイオン代謝を行うNa^+/H^+交換輸送体(NHE)が主にこの役割を担う。NHEは、N末端側に12回膜貫通領域からなる活性部位とC末端細胞質側に活性制御領域をもつ。高等動物のNHEはその一次構造や発現する組織の違いから、様々なアイソフォームが存在する。なかでも普遍的な発現パターンを示すNHE1は細胞内pH・Na^+濃度・細胞容積の制御を担っている特に重要なアイソフォームである。このC末端細胞質領域は多くの細胞内因子と相互作用するが、多様な因子のうち、カルシニューリンB様タンパク質CHP1は特に重要である。CHP1は形質膜に発現するすべてのNHEアイソフォームの生理的活性を発揮させるのに必須な因子で、4つのEFハンドをもつ蛋白質である。生化学的な実験からCHP1へのCa^<2+>結合がないとNHEの活性調節が部分的に阻害されることが明らかになっている。 我々は、2.2Å分解能でラットCHP1の結晶構造解析に成功した。その結果、CHP1は10本のαヘリックスによって構成される蛋白質で、大まかにNローブ、Cローブの2つのドメインからなることが明らかとなった。さらにNローブ,Cローブをつなぐ長いループの存在がCHPの特徴である。 それぞれのドメインは2組のEFハンドから構成されカルシウムはEF-3,EF-4に結合していることが示された。これは生化学的な実験結果とも一致する。CHP1においてEF-1,EF-2にはカルシウムは結合していないが、分子内の水素結合や疎水的な相互作用によりEFハンドを安定化している。 CNBファミリーにはEFハンドの反対側に基質結合部位と考えられる疎水性ポケットが存在するがCHP1の構造ではこのポケットに10番目のヘリックスが部分的に入り込んでいた。
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