研究概要 |
1、抗体Fab腕の溶液中での可動範囲を解析するため、大きさの異なる蛋白質抗原と各蛋白質に対するモノクローナル抗体を準備し、その分子間相互作用を超遠心分析、TOF-MS、表面プラズモン共鳴バイオセンサーを用いて解析した。その結果、溶液中にある抗体は、ウシ血清アルブミン(BSA,67kDa)程度の抗原に対しても2本のFab腕が結合に関与できる(抗原:抗体=2:1)のに対して、抗体のFc部分を固定化した状態では、BSAに対して1:1でしか結合できないことが明らかになった。これは抗体のもつ自由度を明らかにしたと同時に、抗4-hydroxy-3-nitrophenyl(NP)抗体で認められた抗原結合に伴う微小な構造変化、すなわち抗体Fc部分の構造情報がFab部分にも影響を及ぼすことを支持し、細胞表面上でB細胞受容体の架橋を伴わないシグナル伝達に抗体の構造変化が寄与することを示唆した。 2、抗体の自由度解析に応用しうるフォトンエコー分光法を米国スクリプス研究所にて学んだ。非常に有効な手法ではあるものの、感度にまだ問題点があり、抗NP抗体に適用するにはさらなる改善が必要であることがわかり、その研究を進めている。 3、親和性成熟過程にある抗NP抗体のFab部分の1つについて、抗原との複合体の結晶が得られたので、そのX線解析実験を行った。その結果、分解能が3Å程度だったので、さらなる結晶の改良を目指すこととした。 4、抗NP抗体のヘテロクリシティ解明のため、いくつかのモノクローナル抗体と3種類の抗原、NP、4-hydroxy-3-iodo-5-nitrophenyl(NIP)、4-hydroxy-3,5-dinitrophenyl(NNP)との各相互作用解析を、表面プラズモン共鳴バイオセンサーを用いて行った。各pH条件下での解析の結果、ヘテロクリシティによる分子認識の違いが各抗原の水酸基の解離状態に起因することが明らかになった。
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