顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)は白血球またはリンパ球に分類される血液細胞群の分化・増殖に関与する因子であり、癌の化学療法や放射線療法などで白血球、特に好中球の減少をきたした患者に対しそれを回復させる医薬品として実用化されており、国内で約450億円の市場規模を有する。平成17年度にはヒトGCSFのリガンド・受容体複合体構造の決定に成功し、取得した複合体構造はリガンドと受容体が2:2の組成比で構成されており、さらに既知の熱力学的および生化学的実験結果と照らし合わせることにより、決定した複合体構造が活性状態を示すことを明らかにした。平成18年度は、活性に必須である2量体構造形成を司る領域である受容体中のIg様ドメインに着目し、Ig様ドメインとリガンドの相互作用解析に取り組んだ。 平成18年度前半は、Ig様ドメインを大腸菌発現系を用いて取得し、ヒトGCSFとの熱力学的・分光学的相互作用解析を実施した。Ig様ドメインは大腸菌発現系では変性状態の封入体として取得されるため、活性体に巻き戻した後に相互作用解析に供した。熱力学的解析には等温滴定型カロリメトリーを、分光学的解析にはゲルろ過を組み合わせた多角度光散乱検出器を用いて、結合に伴うエンタルピー・エントロピー変化、結合力および結合比を決定した。さらに、ゲルろ過で取得されたリガンド・受容体(Ig様ドメイン)複合体の結晶化スクリーニングを実施し、3.3Å分解能の回折能を有する結晶を取得した。現在、分解能の向上を目指して、結晶化条件の最適化を実施中である。 本申請課題研究期間中に得た研究成果は平成17年度の2件につづき、平成18年度も1件雑誌論文として掲載された(研究発表欄に記載)。また、本研究成果によって、研究代表者は所属機関である日本原子力研究開発機構の理事長表彰(研究開発功績賞)を受賞した。
|