SATB1(special AT-rich sequence binding protein 1)は、胸腺において免疫T細胞の分化・成熟の制御に必要な転写因子である。インターロイキン2受容体などの遺伝子DNA上の核マトリックス付着領域(MAR)に結合して、ピストン脱アセチル化酵素をrecruitすることにより、転写の抑制を行う。本研究では、SATB1によるMAR-DNAの認識機構を、構造生物学的手法を用いて明らかにすることを目的とする。 先ず、SATB1-MAR結合ドメイン(MBD)の立体構造を、NMR法によって解析した。決定された構造は、αヘリックス5本からなる新規性の高いものであった。さらに、NMR titration法や、変異導入タンパク質のDNA結合を表面プラズモン共鳴法によって解析することにより、DNA結合のインターフェイスとなる領域を同定した。同時に、DNAのmajor groove側にメチル基を導入したDNAや、groove特異的に結合する薬剤を用いた表面プラズモン共鳴実験により、SATB1-MBDが、従来考えられていた説と異なり、MAR-DNAのmajor grooveに結合することを見いだした。 次に、SATB1-MBDとMAR-DNAの複合体の結晶を作成し、実験室系で2.0Å分解能、放射光施設において1.75Å分解能の回折データを収集した。立体構造を決定した結果、DNAのmajor grooveに結合して、MAR配列を特異的に認識する機構を明らかにした。塩基特異的認識においては、直接の水素結合は1つのアミノ酸と1つの塩基の間にのみ存在し、水分子を介した水素結合や疎水的相互作用などが重要な役割を果たしていた。SATB1-MBDはCUTドメインというグループに分類されるが、本研究は、CUTドメインによるDNA認識機構を初めて明らかにしたものである。
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