1)輸送タンパク質の精製単離:フェロモン前駆体は、極性官能基を全く含まない疎水性化合物である。従って体内の移動には、輸送タンパク質が関与していることが予想された。ところで、成虫の保有する体液は微量で、その収集は容易でない。また体液に含まれる血球を破壊すると、本来体液に含まれていないタンパク質が放出される。そこでまず正常な体液の効率的な収集法を確立した。その方法で処女雌から体液を収集し、密度勾配超遠心などを活用して分画を行い、それらの結合している炭化水素を溶媒抽出しGC-MSにて分析することによって、リポホリンが前駆体を結合していることを確証した。 2)輸送タンパク質の輸送特性の検討:重水素標識前駆体とその関連物質の混合物を腹腔内注射し、その後得られるリポホリンの結合している炭化水素を分析した。それらの結合を定量したところ大きな違いはなく、雌成虫のリポホリンは炭素数や二重結合数の違いを認識せずに結合していることが明らかになった。さらに、幼虫や雄成虫の体液に含まれるリポホリンも、前駆体等に対して同様な結合能を有していることがわかった。 3)PBANの構造と作用機構:食道下神経節から分泌される神経ペプチドホルモン(PBAN)により性フェロモンの生合成は制御されている。そのアミノ酸配列を同定するとともに、高濃度に前駆体を結合したリポホリンを用いて、培養フェロモン腺への前駆体の輸送過程への影響を調べたところ、ホルモン濃度に依存した前駆体の取り込みを観測することに成功した。
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