鉄硫黄(Fe-S)タンパク質は、非ヘム鉄と無機硫黄原子から或るFe-Sクラスターを持つタンパク質の総称で、構造と機能は多種多様、大腸菌では全タンパク種の3%以上を占める。これらFe-Sタンパク質の機能発現において、Fe-Sクラスターの形成は必須である。我々は近年、クラスターの生合成を担う二種の独立したマシナリー(ISCとSUF)を明らかにし、反応メカニズムの解明を進めている。本研究では特にISCマシナリーの心臓部であるIscUに焦点を置いて研究を進め、以下の成果を得た。 1.大腸菌のISCマシナリーについて詳細な遺伝学的解析を進め、HscBとHscAの必須機能をバイスするIscU内のサプレッサー変異を14種類見出した。これら変異型のIscUタンパク質について生化的な解析を行い、CDスペクトルに見られる二次構造のレベルで、野生型IscUのものから大きく変化ていることを明らかにした。IscUはクラスター中間体の形成部位と考えられており、今回の結果は、HscBとHscAが引き起こすIscUの構造変化が、Fe-Sクラスター形成に必須であることを示している。 2.超好熟菌Aquifex aeolicusのIscUが不安定なFe-Sクラスター中間体を結合したホロ型の状態で精できることを見出し、さらに変異を導入することによって中間体の安定化を達成した。結晶化にも成し、ホロ型IscUの構造を2.2Å分解能で初めて決定することができた。ホロ型IscUは、意外にも非対な三量体であり、その中の1分子にのみ2Fe-2Sクラスターが結合している。この三量体の会合と解離が、Fe-Sクラスター中間体の形成とアポタンパクへの移行に決定的な役割を担うと考えられる。
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