真核細胞では、ほとんど全ての細胞に方向性があると考えられており、この概念は「極性」と呼ばれている。細胞の極性は、細胞の運動や形態と深く関わると考えられており、神経細胞においては、神経突起や軸索の形成や神経伝達物質の放出などが細胞極性と関わるプロセスである。ショウジョウバエや両生類での解析からWntやDvlのシグナルは遺伝子発現以外に細胞骨格を動員するPCP経路を活性化することが知られているが、ほ乳動物の神経系におけるDvlの作用については不明な点が多かった。 そこで、本研究では神経系細胞におけるDvlの作用機構を解析するためにDvl結合蛋白質を検索し、シナプトタグミンIを同定した。シナプトタグミンIは神経細胞の前シナプスに局在する蛋白質で神経伝達物質の放出に必須の蛋白質である。PC12細胞においてRNAi法によりDvl遺伝子をノックダウンすると脱分極刺激による神経伝達物質(ドパミン)の放出(エクソサイトーシス)が抑制された。この抑制は再度Dvlを強制発現する事により解除された。 また、PC12細胞ではDvlのRNAiにより、脱分極時のシナプス小胞のリサイクリングも抑制された。また、DvlはシナプトタグミンIを介してμ2アダプチンとも複合体を形成する事が明らかとなった。したがって、Dvlは神経細胞において、シナプトタグミンIやμ2アダプチンと複合体を形成することにより、神経伝達物質を含むシナプス小胞のエクソサイトーシスやエンドサイトーシスを制御する事が示唆された。 本研究は神経系細胞でのDvlによるエクソサイトーシス/エンドサイトーシスの調節機構を明らかにしたことから、当初の目的をほぼ達成したと考えられる。
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