本研究課題は、低酸素応答性転写制御因子であるhypoxia inducible factor-1 (HIF-1)が細胞を取り巻く微小環境を感知し細胞自身の存在部位を認識することで免疫担当細胞特有の機能発現を誘導するシグナル分子として生体内で働いている可能性を検証することを目的としている。本年度は研究計画にあるように、まず免疫担当細胞特異的にHIF-1αの発現を欠失させることが出来るマウスの確立を行った。これらのマウスは外表面上特に異常は認められず、数ヶ月間の飼育環境下で感染症の自然発症は認められなかった。HIF-1α遺伝子欠損効率をサザンブロットおよびgenomic PCRにて解析し、Bリンパ球および単球系では約50-70%の、一方Tリンパ球ではほぼ全ての細胞でその発現が欠失していることが明らかになった。一方、Bリンパ球の分化についてはこれまで報告にあるようにHIF-1α遺伝子欠損マウスではB-1リンパ球様の細胞集団が末梢で増加していることが確認できた。一方、Tリンパ球の分化については胸腺および脾臓における細胞数およびその分化の程度にはHIF-1α遺伝子の欠損による変化は認められなかった。また、CD4陽性T細胞を、in vitroで抗CD3/28抗体で刺激を加えた結果、通常酸素環境(20%)下においてHIF-1α欠損T細胞はコントロール細胞と比較してIFN-γ産生能の低下が認められた。また、低酸素培養条件下では、HIF-1遺伝子欠損に関係なく両者の細胞においてIFN-γ産生低下が認められたが、その産生量はHIF-1α欠損T細胞の方が更に少なかった。次に、コントロールおよびHIF-1α欠損マウスの脾臓より、CD4^+CD45Rb^<high>T細胞(naive T細胞)を分離し免疫不全マウスに移入することで腸炎を発症させ、その後の体重変化を指標に腸炎の程度を評価した。HIF-1α欠損T細胞を移入した群では、コントロールT細胞を移入した群と較べて体重減少が有意に強く腸炎が増悪することが明らかになった。以上の結果は、Tリンパ球におけるHIF-1が局所炎症制御において重要な機能を有していることを示唆していると考えられた。
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