研究概要 |
本研究課題は、低酸素応答性転写制御因子であるhypoxia inducible factor-1(HIF-1)が細胞を取り巻く微小環境を感知し細胞自身の存在部位を認識することで免疫担当細胞特有の機能発現を誘導するシグナル分子として生体内で働いている可能性を検証することを目的としている。本年度は研究計画に挙げた内容に沿って研究を遂行し、CD4^+CD45Rb^<high>T細胞(naive T細胞)を移植することで惹起されるtransfer colitis(TC)モデルにおいて、HIF-1α遺伝子を欠損したT細胞移植により粘膜固有層へのT細胞のより著明な浸潤が認めら、炎症の増悪が免疫組織学的検討でも裏付けることが出来た。次に、この炎症増悪反応が局所に浸潤してきたT細胞が分泌する炎症性サイトカインの増強により惹起されたのではないかと考え、粘膜固有層に浸潤してきたCD4^+T細胞を分離し、その細胞におけるIFN_γ,IL-4などの炎症性サイトカインの遺伝子発現を定量的RT-PCR法により解析を行った。その結果、IFN_γ,IL-4,TNFα,IL-10の発現レベルはHIF-1α遺伝子欠失の有無に関わらず有意な差は認められなかった。一方、申請者は別の炎症モデルとしてアセトアミノフェン(APAP)誘導性肝炎モデルにおいても、T細胞機能制御に対するHIF-1αの機能解析を進め、APAP投与による炎症増悪により致死率がHIF-1α遺伝子欠失マウス(KO)で有意に高くなることを見出した。さらに、この致死性炎症が肝実質細胞障害には依存せず、炎症局所に集積するT細胞由来TNFαの産生増加に起因していることを中和抗体を用いた実験により明らかにした。以上の結果は、Tリンパ球におけるHIF-1が局所炎症制御において重要な機能を有していることを示唆している。現在、本研究データをまとめ論文投稿準備を行っている。
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