硫黄は生体には必須で、鉄と結合した「鉄硫黄クラスター」として生体内で種々の酸化還元反応に関与する他、一部のtRNAのアンチコドン部位の硫黄修飾(2チオ修飾)に用いられて翻訳複合体の安定性を増し、翻訳の効率や正確さを向上させている。本研究において、中井は、真核生物における含硫小分子への硫黄供給経路に興味を持ち、酵母を用いて研究を進めてきたが、本年度中に、酵母においてアンチコドン第1位のウリジンの2チオ修飾(s2U34)の硫黄付加の経路が、ミトコンドリアとサイトゾルのtRNAとでは異なることを明らかにした。すなわち、鉄硫黄クラスターの生合成はミトコンドリアで起こるのに対して、ミトコンドリアtRNAのs2U34の2チオ修飾には硫黄を供給するシステインデスルフラーゼNfs1以外の鉄硫黄クラスター生合成経路は関与しない。一方、サイトゾルtRNAのs2U34の2チオ修飾は、サイトゾルに存在する鉄硫黄タンパク質のクラスター形成に必要な真核生物特有のCIAタンパク質群を必要とすることを明らかにした(研究発表11参照)。バクテリアでは基本的にミトコンドリア型の、鉄硫黄タンパク質に依存しない、硫黄の授受反応の連続でtRNAが2チオ修飾をうける。従って、本研究で明らかになった、真核生物独自の硫黄供給経路は、真核生物がミトコンドリア、サイトゾルという異なる局在の含硫小分子の代謝調節を行う上で大変重要と考えられるものである。 研究代表者の中井は、また、酵母にひきつづき、HeLa細胞でも、鉄硫黄クラスター合成経路とtRNAの2チオ修飾の相関を解析する手段として、システインデスルフラーゼNfs1のノックダウンとマウスNfs1による非常に効率の良い相補の系を確立した(研究発表11参照)。酵母で知られている鉄硫黄クラスター合成関連のタンパク質で培養細胞ではまだ知られていないものもあり、今後、酵母と培養細胞の解析を両立する基盤を作ることができたといえる。
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