MCM(minichromosome maintenance)は6個[MCM2-7]の構造的に類似したタンパク質からなる複合体で、複製ライセンス因子の本体であり、複製開始に必須である。また、複製開始後、何らかの機構で不活性化され、再複製の抑制に関与する。MCM4-6-7複合体はDNAヘリカーゼ活性を有することから、MCMは複製フォークにおけるDNAヘリカーゼの一部として機能すると考えられている。我々はこれまでMCMヘリカーゼ活性に影響を与える種々の条件を検討し、鋳型DNA上のT-rich-本鎖DNAがヘリカーゼ活性を活性化することを報告した。しかし、MCMのヘリカーゼ活性は他の複製ヘリカーゼに比較してやや弱いことから、何らかの他の因子により、より強力なヘリカーゼ複合体へと変換される可能性が示唆されている。 MCMのクロマチン結合にはCdt1タンパク質が重要な役割を果たすことが知られている。Cdt1タンパク質は、酵母から動物細胞まで保存され、複製前複合体の形成に重要な役割を果たすことが知られている。我々は、昨年Cdt1はMCM複合体と共免疫沈降し、特にMCM2、MCM4-6と相互作用すること、Cdt1の存在下では、Mcm4-6-7とMcm2-7複合体のDNA結合活性が促進されることを見い出した。本年度は、Cdt1によるMCMの機能制御についてさらに詳細に解析した。MCM4-6-7ヘリカーゼの活性は高ATP濃度下でCdt1によって強く促進される。この条件下で、MCMとCdt1は分子量700kDa以上の高分子量の複合体を形成した。ATPの非存在下では、一部のCdt1はMCMと相互作用したが、その分子量は、もともとのMCM複合体と大きな違いがなかった。また、Cdt1の部位特異的変異導入により、MCMのヘリカーゼ活性促進能を欠損した変異体が同定された。この変異体は、ATP存在下でもMCMと高分子量複合体を効率よく形成できないことから、ヘリカーゼ活性促進は、高分子量複合体形成に依存することが示唆された。以上の事実は、Cdt1は大腸菌ヘリカーゼDnaBのloading因子であるDnaCと類似な機能を持つことを示す。
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