私達の体を構成するすべての細胞は、重力や外力のみならず体内の骨格筋や平滑筋の動きに起因する様々な機械的刺激に晒されている。細胞は機械刺激(あるいは力学刺激)を受容して細胞内の形態変化などさまざまな反応をしめす。生体膜や細胞骨格には内在ストレスが存在し、これらは細胞の成長、分裂、形態変化、運動に伴って変化して細胞応答を修飾する。しかしその分子機構は全く未解明の状態である。その最大の理由は、機械刺激の感知機構、言い換えるとメカノセンサーの分子実体やその仕組みが不明な点にある。現在唯一明瞭なメカノセンサーは細胞表面の膜にある機械受容チャネルのみである。我々は細胞骨格や接着構造を対象にして研究を進めてきたが、その過程で常に細胞骨格(ストレス線維:アクチン線維束)が力の伝達媒体として関与することを発見した。この研究では細胞の内部にある細胞内骨格とその修飾蛋白質分子が力学受容の装置として働いていることを直接的に証明する。平成17年度の研究から力学刺激がアクチン分子に作用するとアクチン線維の構造が変化しそれが力学受容の分子的な実体として働いてること、そしてこの構造変化に伴いアクチン線維の脱重合因子ADF/コフィリンによるアクチンの脱重合作用が抑制されることを示すデータが得られた。これを証明するために、Fアクチン-分子を可視化し、精製したADF/コフィリンによるFアクチン脱重合切断反応を顕微鏡下で分析するための装置は完成した。Fアクチンに張力を付加しADF/コフィリンによる脱重合活性が抑制されることを示すデータも得られた。これにより細胞骨格が力学受容の装置として働きうること証明することができた。
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