本研究は、光合成エネルギー変換反応にとって最も重要な位置を占める光化学反応中心の構造と機能の相関性に着目し、緑色イオウ細菌型反応中心の電子移動経路を明らかにすることを目的で遂行している。タイプ1に分類される緑色イオウ細菌やヘリオバクテリアの反応中心において、2次電子受容体A_1であるキノンの存在有無については長く論争の的であった。最近、我々はヘリオバクテリアの反応中心において、キノンに由来すると考えられるESRシグナルを検出した。そこで本年は、分子生物的手法による解析が可能である好熱性緑色イオウ細菌であるChlorobium tepidumを研究材料として用い、2次電子受容体のキノン探索について計画した。キノン合成に関与する遺伝子menGはSAMを基質とするメチル基転移酵素をコードし、キノン合成の最終段階で働く。本実験計画においては緑色イオウ細菌のmenG破壊株を作成し、閃光照射後のキネティックスを解析することにした。すでにシアノバクテリアおいてmenG破壊株の作成が報告されており、単離された光化学系I反応中心を用いた閃光照射実験では、2次電子受容体A_1から3次電子受容体F_Xへの電子移動速度が約2倍遅くなっていることを示している。この原因として、メチル基が脱離したキノンの酸化還元電位が約50-60mV大きくなったことによるとされている。緑色イオウ細菌の反応中心に2次電子受容体キノンが存在するならば、menGの破壊株を作成することにより、閃光照射後のキネティックスの変化が期待できる。現在、プラスミドの構築と形質転換作業が終了し、選択培地による目的変異株のスクリーニングを行った。
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