研究概要 |
本年度は,折れたたみの初期過程で非天然αヘリックス中間体を形成するβ-ラクトグロブリンと,水溶液中では顕著な中間体を蓄積せずに2状態で折れたたまるユビキチンを対象とした以下の研究を行った. 1.ウシβ-ラクトグロブリンの折れたたみ反応 ウシβ-ラクトグロブリンを単量体(pH10.6)で約50μm厚のゲルに封じ込めた.ゲル内部のpHを4.2に下げ,6Mグアニジン塩酸を加えることでゲル中のタンパク質を完全に変性させた.折れたたみ反応は,ゲル中グアニジン塩酸を迅速に除去することで秒オーダーで開始できることを実験的に確認した.折れたたみ反応は遠紫外域の円二色性(CD)スペクトルで追跡し,SVD解析を基礎としたグローバルフィッティング法で各中間体の寿命とCDスペクトルを決定した.折れたたみ反応は10秒から数日にわたる時間領域で観測され,1)非天然αヘリックスの形成,2)βシート核の形成,3)α-β転移の順に逐次的に起こることがわかった.これらの結果から,折れたたみ初期に現れる非天然αヘリックス構造が,折れたたみの核となるβシート核構造の形成に寄与していることが示唆された。また,ゲル環境が折れたたみ経路に与える影響は比較的小さいことが示唆された 2.ウシ・ユビキチンの折れたたみ反応 上と同様の手順で,ゲルに封じ込めたユビキチンを6Mグアニジン塩酸で変性させた後,グアニジン塩酸を迅速に除去することで折れたたみ反応を開始させた.折れたたみ時間はゲルの重合度に依存して約1日から数日に拡張され,折れたたみの全過程のCDスペクトル変化を実時間観測することができた.ユビキチンは、水溶液中では2状態的に折れたたまるが,ゲル中ではαヘリックスの多い中間体が蓄積することが示され,折れたたみ経路の途中に存在する不安定な高エネルギー中間体をゲル中で観測できる可能性が示唆された.
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