本研究では、水に溶けたタンパク質分子を透明な多孔性ケイ酸ゲルの細かい網の目の中に水と一緒に封じ込め、タンパク質分子の動きをゲル・マトリックスとの相互作用で数桁遅くし、折れたたみの"全過程"を"高精度"に解析することを意図した。今回、以下の3つのタンパク質を対象とした研究を行った。 1.ウマ・シトクロムc ゲル中シトクロムcの折れたたみ時間はゲルの重合度に依存して数日から数週間に拡張され、折れたたみの途中で、水溶液中と同様に、分子収縮とヘッリクス形成が逐次的に起こることがわかった。折れたたみのキネティクスとスペクトル解析から合計4種類の中間体が同定された。そのうちの2つは溶液実験でも観測されている初期収縮中間体とモルテングロビュール中間体であり、他の2つは折れたたみ経路の途中に存在する通常不安定な高エネルギー中間体である可能性が示唆された。 2.ウシ、ユビキチン ゲル中ユビキチンの折れたたみ時間はゲルの重合度に依存して約1日から数日に拡張され、折れたたみの全過程を円二色性(CD)スペクトル変化で追跡することができた。ユビキチンは、水溶液中では2状態的に折れたたまるが、ゲル中ではαヘリックスの多い中間体が過渡的に蓄積することが示され、折れたたみ経路の途中に存在する不安定な高エネルギー中間体をゲル中で観測できる可能性が示唆された。 3.ウシ・β-ラクトグロブリン ゲル中β-ラクトグロブリンの折れたたみ反応は10秒から数日にわたる時間領域で観測され、1)非天然αヘリックスの形成、2)βシート核の形成、3)α-β転移の順に逐次的に起こることがわかった。これらの結果から、折れたたみ初期に現れる非天然αヘリックス構造が、折れたたみの核となるβシート核構造の形成に寄与していることが示唆された。また、グル包括が折れたたみ経路に与える影響は比較的小さいことが示された。
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