昨年度に引き続き、真正粘菌変形体を用いた結合振動子系に見られる振動パターン間の遷移現象につい詳細な解析を行った。遷移現象の背後のメカニズムを知るために各パターンに留まる滞在時間の分布を詳細に調べた。その結果、複数の振動パターン間の自発の規則には次ような特徴があることがわかった。滞在時間の分布はガンマ分布(複数のポアソン過程から生じる分布)をベースとしたものである。結合強度が弱い場合にガンマ分布のみが観察され、結合強度が強くなると、特定の滞在時間にピークが現れ、次に長時間側ヘテールを引くようになるが、最後には再びガンマ分布に戻る。ガンマ分布のみが現れているときには、遷移はほとんど必ず3つの振動子がバラバラに振動するパターンを通過しておこる。分布にピークやテールが現れる結合強度では、各パターンは最も観測頻度が高くなっており、この辺りで系は分岐してそれぞれのパターンがより安定化していると思われる。しかし、同時にガンマ分布が観察されることから、その存在が遷移現象を引き起こしていると推察される。つまり、背後にある力学系として次のような描像が得られる。結合強度を制御パラメータとした分岐構造があり、それらは多重の準安定状態にある。真正粘菌を始めとした生物系は常に内外ノイズにさらされており、分岐前後の近傍ではノイズによって多重準安定状態間を跳ばされてガンマ分布を形成していると考えられる。真正粘菌のエサ探索時にはランダムな時空間パターンが現れるが、このような機構を利用して固定化した行動ではなく自発行動が可能となると考えられる。次のステップとして、外部情報を得た場合どのように振動パターンが固定されるかを調べることが目標であったが、本年度は最終年度であるにもかかわらず統計的な解析に予想以上の時間がかかり、パターンの固定化には結局着手することができなかった。それについては今後の課題としたい。
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