出芽酵母で翻訳阻害とアクチン脱極性化を引き起こす局部麻酔剤テトラカインの作用機構解明に主眼を置いて解析した。今回新たにテトラカインに耐性増殖を示す変異株(グループ3)をEUROSCAFの遺伝子破壊株バンクから多数同定した。これらの株についてテトラカイン作用後のアクチン極性を顕微鏡観察、また翻訳開始をポリソーム解析で調べたところ、薬剤処理後、アクチンは脱極性化するが、翻訳開始は停止しないグループ(A)、アクチンは脱極性化しないが、翻訳開始は停止するグループ(B)、アクチンは脱極性化せず、翻訳開始も停止しないグループ(C)の3つの変異群に分類した。グループ(A)はテトラカインによる翻訳阻害にのみ関与していると考えられるが、この中で強い耐性を示すNOT4遺伝子破壊株について解析した。 Not4は酵母から高等動物まで高度に保存された因子群から形成されるCcr4-Notタンパク質複合体の因子の一つで、グルコース抑制だけでなく様々な遺伝子発現に関与する事が知られている。また複合体のコア因子であるCcr4がmRNAのポリA鎖分解酵素活性を持つ事が明らかになっている。そこでテトラカインやグルコース、アミノ酸飢餓による翻訳阻害能をnot4破壊株やccr4破壊株でも調べたところ、not4破壊株では翻訳阻害に耐性となったが、ccr4株では耐性にならなかった。この事実はNot4はポリA鎖分解を介して翻訳停止に関与している訳ではない事を示している。申請者はCaf1もアミノ酸やグルコース飢餓時の翻訳開始停止に必要である事を既に報告しているので、これらの事実をあわせると、Ccr4-Not複合体はmRNAの転写やポリA鎖の分解だけでなく、ストレス時の翻訳開始の停止にも関与すると考えられる。 さらにこれらテトラカイン耐性変異株群を用いて種々の薬剤に対する感受性を調べたところ、テトラカインと類似の効果を示す薬剤をいくつか見いだした。
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