大腸菌のゲノムプロジェクトにおいて明らかになった蛋白一蛋白相互作用の巨大ネットワークの中に、我々は新たな生物学的な機能を持つ新しいシステムを最近発見し、「POCシステム」と命名した。 この「POCシステム」に含まれる1群の蛋白質は全て、細胞内を振動する性質があり、細胞内にらせん状に分布する。このシステムに含まれるSecA蛋白質(膜蛋白質の内膜透過に関与)のATPase活性の阻害剤であるアジ化ナトリウムの添加によって、ただちにPOCシステムの他の蛋白質の振動が停止する。一方、アジ化ナトリウム耐性のsecA変異株では、振動は停止しない。このことから、これら1群の蛋白質の振動には、SacAのATPase活性が重要な働きをしていることが明らかになった。現在までに「POCシステム」に含まれることが分かった蛋白質は、SecA・SecY・SecB(Secretory:膜蛋白質の内膜透過に関与)・AcpP(アシル基運搬蛋白質)・MukB(コンデンシン:DNAの濃縮)・MreB(アクチンホモログ)・SetB(糖の膜輸送)・SeqA(Sequestration:複製直後の半メチル化DNAに特異的に結合する蛋白質)である。 これらの蛋白質の変異株は、DNAジャイレースの阻害剤であるノボビオシンに超感受性を示すことが分かった。さらに、secA・secY・acpP遺伝子の変異株では、姉妹染色体DNA分離が異常になるため、長い細胞の中に大きな核様体を持つPar^-の形質を示し、mukB変異株では、染色体DNAの細胞内位置が異常になるため、無核細胞を放出しMuk^-の形質を示すことが分かった。このことは、これらの蛋白質が本来の機能の他に、染色体DNAのオーガニゼーションや細胞内位置決定(positioning)にも関与していることを強く示唆している。したがって、我々はこれを「POC(positioning of chromosome)システム」と命名した。 我々は、このPOCシステムにおける蛋白質の振動は「反応拡散系」によるものと推察している。「Fプラスミドの分配に関与する蛋白質(SopA・SopB)の振動は反応拡散系によるものである」という我々が先に提出した仮説(Adachi and Hiraga. J.Mol.Biol. 2006)と併せて比較研究中である。
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