大腸菌のSecA・SecY・AcpPの条件致死変異株は、染色体分配が異常のときに現れるPar-形質を示すことを発見した。また野生型株にSecAのATPase活性の阻害剤である1mMアジ化ナトリウムを添加したときにもPar-形質を示した。また、この薬剤添加で、oriCコピーの細胞内位置が異常になる。これらのことは、大腸菌の染色体分配にSecA・SecY・AcpPタンパク質が関与していることを示している。さらに我々はGFPを結合させたSecA・SecY・AcpPタンパク質および他の7種のタンパク質(MukB・ParC・ParE・GyrA・GyrB・SeqA・SetB)が細胞内で強い蛍光焦点として存在し、その蛍光焦点は細胞内を動き回る性質があることをタイムラプス実験によって明らかにした。1mMアジ化ナトリウム添加によってSecAのATPase活性を阻害したときや、条件致死変異株を使ってSecA・SecY・AcpP活性を阻害したときには、これら一連のタンパク質の蛍光焦点の動きは見られなくなる。このことは、これらのタンパク質の蛍光焦点の動きには、SecA・SecY・AcpPの機能が必要であることを示している。さらにFRAP実験によって、SecA・SecY・AcpP活性を阻害するとSecAまたはSecYの拡散しない分を示している。さらにFRAP実験によって、SecA・SecY・AcpP活性を阻害するとSecAまたはSecYの拡散しない分画(bound form)の量が増加することを明らかにした。我々は、これら一連のタンパク質のネットワークを「POC (positioning of chromosome)システム」と名づけ、これは1種の反応拡散系であるという仮説を提唱した。SecAとSecYがこの反応拡散系の中枢機構を構成しており、他の一連のPOCタンパク質はこの中枢機構に従属して動くものと推定される。これらのタンパク質の間には生化学的相互作用や物理的な相互作用があることが知られており、中でもMukB-AcpP-SecA-SecYやSecA-DNA topoisomerase IV/DNA gyraseなどの相互ネットワークがどのようにして染色体分配に関与するのかという課題は、今後明らかにしなければならない興味深い問題である。
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