昨年度から赤血球を中心とした血液細胞分化における転写因子Bach1によるヘム応答性遺伝子制御の解析を進めてきた。赤芽球系細胞のβ-グロビン遺伝子転写量を定量RT-PCR法を用いた結果、野生型およびbach1ノックアウトマウスの間では有意な差が認められなかった。また、α-グロビン、p45、GATA1などの発現もほぼ同程度であった。そこで、野生型およびbach1ノックアウトマウスにphenylhydrazineを腹腔投与し溶血性貧血を誘導した後、同様の解析を行った。その結果、β-グロビン発現量のみbach1ノックアウトマウスで軽度減少を認め、α-グロビン、ALAsE、p45およびGATA1の発現は野生型との差が認められなかった。一方、末梢血では、両者の間でヘモグロビン量、白血球および赤血球数の差は認められなかったが、血小板数は野生型と比べてbach1ノックアウトマウスで有意の増加が認められた。これらの結果から、ヘム結合因子Bach1が造血幹細胞から巨核球への分化、巨核球の成熟、血小板生成までの過程に関与する可能性を強く示唆された。今後は、野生型およびbach1ノックアウトマウスの骨髄から巨核球を分離し、定量RT-PCR法およびcDNAマイクロアレイを用いて巨核球分化に関連する遺伝子を中心とした遺伝子発現プロファイルを解析し、Bach1の巨核球分化制御における役割の検討を予定している。 また、Bach1は酸化ストレス防御酵素ヘムオキシゲナーゼー1(HO-1)の発現を転写調節している。そこで、重篤な酸化ストレスである放射線による障害への応答でのbach1の役割をbach1ノックアウトマウスを用いて解析した。その結果、放射線照射したbach1ノックアウトマウスでは、野生型と比較して皮膚、小腸などのアポトーシスが有意に抑制されていることが明らかになった。
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