本研究は、分裂酵母における減数分裂期前期染色体高次構築の解明、染色体高次構築に必要な分子機構の同定および機能解析を目的としている。今年度において、減数分裂期前期における染色体クロマチンの構造変化を解明するために、染色体高次構築を生細胞で計測可能なアッセー系の確立を実現し、減数分裂期特異的に作用するコヒーシンたんぱく質が染色体の高次構築に直接に関わることを見つけた。具体的には、1、大腸菌由来のLac-operator/Lac-Inhibitor-GFPシステムを利用して、染色体2番のテロメアとade8ローカス、また、ade8とade1ローカス2カ所を同時に可視化できる野生株およびコヒーシンRec8の破壊株を作製した。2、上記の株を用いて減数分裂期を通してリアルタイム観察することにより、野生株における染色体凝縮度変化の基礎データを取得し、その特徴を解析した。その結果、野生株において、減数分裂期前期の凝縮度が30nmクロマチンの2〜2.5倍で保たれていることが分かった。3、コヒーシンRec8の破壊株の減数分裂期前期の染色体凝縮度は野生株の約半分、30nmクロマチンと同じレベルまで低下していることが明らかになった。4、Rec8と同様に姉妹染色体を接着させるコヒーシン複合体の構成因子であるRec11の破壊株においても染色体凝縮度の低下を示すが、Rec8の破壊株より低下の程度が低い。5、コヒーシンの安定な染色体結合を促進する因子Pds5の破壊株において、Rec8の破壊株とは逆に、染色体の凝縮度が野生株2倍以上上昇することを発見した。このように、減数分裂期前期の染色体構造に減数分裂期特異コヒーシンたんぱく質とPds5が大きく寄与することが明らかになり、今後、減数分裂期前期染色体の凝縮度変化の生物学意義や関連分子の制御機構などについて調べる予定である。
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