リン脂質ヒドロペルオキシドグルタチオンペルオキシダーゼ(以後PHGPxと略す)はセレンを含む酵素で、生体膜のエステル化されたリン脂質やコレステロールの過酸化物を還元する働きをもち、通常、抗酸化酵素として機能している。動物の様々な組織に存在するが、精巣でとくに多く発現している。セレン欠乏食でラットを飼育すると、精子形成に異常が起こり、ラットは生殖能力を失う。これまでのわれわれの研究で、この酵素は200kDaの複合体をつくっていること、しかしC-末15アミノ酸鎖に対する抗体では免疫沈降できないことから、この酵素はC-末部分を介して他のタンパク質と複合体を形成していると仮定された。この研究計画では、はじめに、PHGPx全体に対する抗体を作製し、複合体を免疫沈降して、その沈降物をさまざまな方法で分析することにした。精製実験の結果、PHGPxはグルタチオン結合ビーズと結合しない(アフィニティ精製不可)、従来の精製法では純化できないことが明となった。そこで、分取用SDSPAGE装置を用いて、ラット精巣ミトコンドリア画分の抽出液より、精製することにした。精製したPHGPxを免疫した結果、19kDa(PHGPx)に反応する抗体は得られなかった。PHGPxと血漿グルタチオンペルオキシダーゼとのホモロジー検索の結果、30%ホモロジーあり、これが抗体を作らない原因と思われた。今後はブルー・ネイティブ・ポリアクリルアミド電気泳動法で分けたPHGPx複合体をC-末アミノ酸鎖に対する抗体で同定し、複合体構成タンパク質をプロテオーム分析法によって解析する計画である。
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