低分子G蛋白質Rap1の下流標的分子RAPLは、リンパ球の極性形成を誘導するとともに、細胞先端部にインテグリンの集積を誘導し、接着及び遊走を引き起こす働きがある。RAPLの会合分子を、yeast two hybrid法で検索し、ste20-like kinaseに属するMst1を単離、Mst1がどのようにRAPLによって制御されているのか、また、Mst1がどのような分子メカニズムで細胞極性と接着上昇を誘導するのかを検討し、以下の知見を得た。 1)Mst1とRAPLの会合は、Rap1の活性化によって促進すること、また、RAPLと会合することによってMst1のkinase活性が上昇することが判明した。RAPLとMst1は、RAPLのC端側のcoiled-coil領域と、Mst1のC端側Regulatory領域を介して結合することがわかった。このRegulatory領域は、Mst1のN端側に存在するkinase domainに作用して、kinase活性を抑制する働きがあることが判明しているので、RAPLとの会合によってこの抑制が解除されると考えられた。 2)Mst1の過剰発現によってLFA-1/ICAM-1を介する接着の上昇が誘導された。Mst1を過剰発現した細胞は、活性型Rap1及びRAPLを発現した細胞と同様に、細胞極性が誘導され、LFA-1が細胞先端部に集積し、clusteringを形成した。どのようにLFA-1 clusteringが形成されるのかをLive蛍光色素を融合させたLFA-1を発現させ、観察したところ、核周辺領域から、30秒以内に細胞先端部へ移行することが判明した。同時にRAPL及びMst1に異なる蛍光色素を融合させ観察したところ、LFA-1と同時に移動することが判明した。RAPL/Mst1が、小胞に局在することが、スクロース密度勾配遠心法及び免疫電顕法で明かになった。これらのことから、RAPL/Mst1は、小胞輸送を制御することによってLFA-1を細胞先端部へ極性輸送し、前方での接着を誘導していることが示唆された。
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