糸状菌の先端成長は、生物界に普遍的に見られる極性成長の典型的な例である。糸状菌の成長端には特異的な微小管制御機構が存在し、速く持続的な成長維持に関与すると考えられる。 1.先端成長におけるアクチンの機能: アクチンは、あらゆる細胞の成長に必須である。蛍光標識アクチン発現株を用いた生細胞観察を行い、速く成長する菌糸では細胞先端から数μm内側にアクチンパッチの集積がみられ、微小管重合阻害実験からこの集積が微小管依存的である事が明らかになった。アクチン阻害剤により成長は速やかに阻害され、アクチンパッチの緩やかな崩壊と局在の消失が観察された。 2.先端成長におけるSNARE分子の動態: SNAREは、膜融合を司る分子群の総称で、先端成長での細胞膜、細胞壁の拡張に必須であると考えられる。トランスファー(t-)SNARE、小胞性(v-)SNAREそれぞれに蛍光標識を行い生細胞観察した。t-SNAREは細胞膜上にほぼ満遍なく、v-SNAREは成長端付近に局在する事が明らかになった。アクチン結合タンパク質(abp1)との同時観察により、v-SNAREの局在が細胞先端から先端直下のアクチンパッチ領域までに限定される事が分った。 3.モータータンパク質の網羅的解析: A.nidulansゲノム中には11種のキネシンが存在する。これらの内9種について、そのプロモーターを誘導可能なAlcA遺伝子のものに置換した。これら9種の中には、発現量の変化(抑制・過剰発現)により致死となるものは無かったが、菌糸の形状に異常を引き起こすものが抑制、過剰発現それぞれについて数種存在する事が明らかになった。すべてのキネシンにC-末蛍光タンパク質標識を行い局在を観察した。11種中9種で観察可能な蛍光像が得られ、成長端近傍に集積するもの、核に局在するもの、特定の局在が認められないもの、の3種に分類された。
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