本研究は、神経栄養因子(ニューロトロフィン)受容体様タンパク質NRH1の解析を通して、脊椎動物の原腸形成期胚の細胞運動(convergence and extension;C/E運動)の分子メカニズムを系統的に明らかにしようというものである。これまでに、アフリカツメガエル胚を用いて、NRH1の役割が初期胚のC/E運動制御に必須でかつ十分であることを示してきたが、次のステップとして、この1年間では主に次の2つの側面から研究を展開してきた。 1.NRH1によって誘起される細胞内シグナル経路の解析。 NRH1によって誘導される細胞内シグナルカスケードを明らかにする目的で、NRH1に直接結合する細胞内因子の単離を試みた。その結果、Rho-GDI(Rho-GDP dissociation inhibitor)が直接NRH1に結合していることを明らかにした。Rho-GDIは原腸形成期において、たしかに背側中胚葉に発現しており、mRNA微量注入による強制発現によっても、モルフォリノアンチセンスオリゴ(MO)による機能喪失によっても、初期胚の伸長が抑制され、C/E運動に関わっていることが示唆された。現在、Rac、Cdc42など、他の低分子Gタンパク質との機能的相互作用についても細胞生物学的解析を進めている。 2.ニワトリ、マウスにおけるNRH1ホモログの役割。 我々が単離した、ニワトリおよびマウスNRHオルソログはどちらもアフリカツメガエルNRH1同様に胚の後方に発現しており、その作用機序がアフリカツメガエルNRH1と保存されていることが予想される。実際、ニワトリ胚において、電気穿孔法(エレクトロポレーション)によりNRHを強制発現すると初期胚の形態異常が引き起こされた。マウスNRHに関しても、遺伝子欠損マウス(ノックアウト)の作製を進めている。
|