脊椎動物の受精卵は、はじめは球形だが、胚全体の協調的な細胞運動により頭尾軸に沿って長く伸びた胚へと成長していく。この過程において最も重要な細胞運動の1つが、原腸形成期に起こる、収斂収束運動(convergence and extension ; C/E運動)である。我々はこれまでに、アフリカツメガエル初期胚から、ニューロトロフィン受容体様タンパク質NRH1を単離し、これがC/E運動に関わっていることを示してきた。 本研究においては、NRH1によって引き起こされるC/E運動のメカニズムを詳細に明らかにする目的で、細胞内情報伝達に関わる因子を同定することを試みた。まず、NRH1のさまざまなドメインを欠損した変異体をアフリカツメガエルで強制発現し、C/E運動に対する影響を観察した。その結果、細胞内ドメインに存在するdeath domainと呼ばれるヘリックスドメインが、C/E運動を引き起こすことに必須であることが明らかとなった。次にこのドメインをベイトにして酵母ツーハイブリッド法を施行したところ、Rho GDP dissociation inhibitor(Rho-GDI)とNRH1が直接結合することが明らかとなった。Rhoの活性を制御するタンパク質が単離されたことは、C/E運動のエフェクターが低分子GTPアーゼであるという事実ともよく一致する。実際に、Rho-GDIの強制発現ならびに機能喪失実験から、この分子がNRH1のエフェクターの1つであることを強力に支持するデータを得た。 このほか本研究においては、ニワトリやマウスにおけるC/E運動のメカニズムの解明も目指し、これらの動物におけるNRHのオルソログを単離した。In situハイブリダイゼーションを用いた発現解析によって、これらが原腸形成期から胚の後方に発現することがわかり、アフリカツメガエルと同様に形態形成運動に関わっていることが示唆された。
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